大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)1376号 判決 1987年1月29日
原告(反訴被告)
山口清
被告(反訴原告)
梁川博司こと梁文碩
主文
一 被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金一三万〇〇七六円及びこれに対する昭和六一年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し、金六四万三八〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が前項記載の額を超えて存在しないことを確認する。
四 原告(反訴被告)のその余の各請求及び反訴原告(被告)のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じてこれを五分し、その二を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の負担とする。
六 この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一事者の求めた裁判
(本訴)
一 請求の趣旨
1 被告(反訴原告、以下本訴及び反訴を通じ単に「被告」という。)は原告(反訴被告、以下本訴及び反訴を通じ単に「原告」という。)に対し、金三二万五一九〇円及びこれに対する昭和六一年四月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告に対する別紙目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第1項につき仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴)
一 請求の趣旨
1 原告は被告に対し、金一七二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 第1項につき仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 本訴請求の原因
1 事故の発生
別紙交通事故目録記載のとおり本件事故が発生した。
2 責任
本件事故現場の道路は、幅員約四・五メートルの山道の曲り角で、西方のスイス村方面から北東の碇牧場方面に向かつて下り坂の左カーブになつており、そのカーブの内側は山のため、スイス村方面からは碇牧場方面の見通しが、碇牧場方面からはスイス村方面の見通しが悪い場所であるところ、被告は、幅一・九五メートル、長さ五・六二メートルの被告車を時速約五ないし一〇キロメートルで運転し、スイス村方面から碇牧場方面への下り坂を進行して本件事故現場付近に差しかかり、カーブを曲り終わつた辺りで、碇牧場方面からスイス村方面への上り坂を時速約二〇キロメートルの速度で進行してきた原告車の右側部後部ドア付近に自車右前側部を衝突させたものである。被告は、前記のように幅、長さともに大きな被告車を運転して幅員の狭い下り坂の見通しの悪いカーブを左に曲がつて進行しようとしたのであるから、対向車を発見したら直ちに停止できるよう最徐行し、これを発見した場合には直ちに停止して対向車との衝突を避けるべき注意義務があるのに、これを怠り、対向進行してきた原告車を発見しながら停止せず、そのまま時速五ないし一〇キロメートルで自車を進行させた過失により本件事故を発生させたものである。したがつて、被告は原告に対し、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。
3 損害
本件事故により原告所有の原告車はその右側部が凹損するなどしたので、原告は、その修理費用として金三二万五一九〇円を支出した。
4 被告の権利主張
被告は原告に対し、本件事故につき、反訴請求の趣旨第1項記載のとおりの額の損害賠償債権を有するものと主張する。
5 結論
よつて、原告は被告に対し、金三二万五一九〇円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日ののちである昭和六一年四月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。
二 本訴請求の原因に対する認否
1 本訴請求の原因1の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。被告は、本件事故現場手前で原告車を発見したので、被告車の速度を時速約五キロメートルに落し、被告車を道路左端に寄せて徐行していたところ、後記のとおり、原告車は前方に対する注視も徐行もせずに時速約四〇キロメートルの速度で被告車に衝突してきたものであるから、本件事故は専ら原告の過失によつて生じたものであり、被告には過失はなかつた。
3 同3の事実は知らない。
4 同4の事実は認める。
三 本訴(損害賠償請求を除く。)抗弁(反訴請求の原因)
1 事故の発生
別紙交通事故目録記載のとおり本件事故が発生した。
2 責任
本件事故現場の道路は、センターラインもなく、幅員の非常に狭い道路であるから、対向車とすれちがう自動車の運転者である原告としては、時速五キロメートル位に速度を落し、対向車両、道路の状況に応じ徐行しつつ安全な速度と方法で進行し、対向車との接触を避けるべき注意義務があるのに、前方に対する注視及び徐行を怠り、時速約四〇キロメートルで原告車を進行させた過失により本件事故を発生させたものである。したがつて、原告は被告に対し、民法七〇九条に基づき、被告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 車両修理代 金八〇万八〇〇〇円
本件事故により被告所有の被告車は損壊し、被告は、その修理費用として金八〇万八〇〇〇円の債務を負担した。
(二) 代車料 金七七万円
被告は、被告車の修理のため、昭和六〇年八月一八日から同月二八日までの一一日間、代車としてボンテイアツク・ボンネビルブロアムを借り受け、その費用として一日当たり金七万円、合計七七万円の債務を負担した。
(三) 弁護士費用 金三〇万円
被告は、本訴の提起及び追行を被告訴訟代理人らに委任し、その報酬として金三〇万円の支払を約した。
4 結論
よつて、被告は原告に対し、前項記載の損害賠償債権を有するところ、うち弁護士費用のうち一五万円を除く金一七二万八〇〇〇円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年八月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 本訴抗弁(反訴請求の原因)に対する認否
1 本訴抗弁(反訴請求の原因)1の事実は認める。
2 同2の事実は否認する。本件事故現場の状況、本件事故の状況は本訴請求の原因2記載のとおりであるところ、原告は、原告車を運転して碇牧場方面からスイス村方面への上り坂を時速約二〇キロメートルの速度で道路左側を進行し、右カーブ手前に差しかかつた折、その直前に右側の山陰から突然被告車が現われたため、これを避けようとして自車を道路左側一杯に寄せて進行したところ、道路中央から原告車の進路側にはみ出して対向進行してきた被告車と接触したものであつて、原告車の急ブレーキをかける余裕はなく、原告に過失はなかつた。
3 同3の事実中、(一)の事実は認めるが、(二)(三)の事実は否認する。被告車の修理のため代車が必要だつたとしても、一日七万円もする高額な代車は全く必要がない。
第三証拠
本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 事故の発生
本訴請求の原因1の事実(本訴抗弁・反訴請求の原因1の事実)は当事者間に争いがない。
二 責任
成立に争いのない甲第三、第四号証、原告主張どおりの写真であることに争いのない検甲第一号証の一ないし六、第二号証の一ないし五、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証、昭和六一年四月一八日に撮影されたことは当事者間に争いがなく、右甲第二号証により本件事故現場付近の写真であるものと認められる検甲第三号証の一ないし四、原、被告各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件事故現場の道路は、幅員約四・五メートルの山道の曲り角で、西方のスイス村方面から北東の碇牧場方面に向かつて下り坂の左カーブになつており、その内側は山になつていて、スイス村方面からは碇牧場方面の見通しが、碇牧場方面からはスイス村方面の見通しがともに悪い場所である。
2 原告車の長さは四・一八メートル、幅は一・六一メートルであり、被告車の長さは五・六二メートル、幅は一・九五メートルであつた。
3 本件道路には中央線の表示はなく、曲り角付近にカーブミラーは設けられていない。
4 原告は、碇牧場方面からスイス村方面への上り坂を時速約四〇キロメートルの速度で原告車を運転して本件事故現場近くに至り、前方に右カーブを認めて自車の速度を時速約二〇キロメートルに落して右カーブに差しかかつたところ、前方右側約一〇メートルの山の陰から被告車が対向進行してくるのを発見し、危険を感じたが、そのまますれちがえるものと考え、停止も徐行もせずそのままの速度でハンドルを左に切り被告車とすれちがおうとしたが、右カーブにおいて、自車右側部後部ドア付近に被告車の右前側部角付近を衝突させた。これにより原告所有の原告車は、右側部の後部ドア付近から後部にかけて凹損するなどし、被告所有の被告車は、右前側部角付近を破損した(本件事故により被告所有の被告車が破損したことは当事者間に争いがない。)。
5 被告は、スイス村方面から碇牧場方面への下り坂を時速約五ないし一〇キロメートルの速度で被告車を運転して本件事故現場付近に至り、左へのカーブを曲り切る辺りで前方左側約一〇メートルの山の陰から原告車が対向進行してくるのを発見したが、停止せずそのままの速度で道路左側を進行したところ、前記のように原告車と衝突した。
右認定に反する被告本人尋問の結果中の原告車が見えたのは約二〇メートル前方で、原告車は時速約四〇キロメートルの速度のまま道路の中央線に当たる部分を超えて右側にはみ出した状態で被告車に衝突したとする部分は、それ自体いささか不自然であるうえ、これを裏付ける客観的証拠もなく、原告本人尋問の結果に照らしてもにわかに採用することはできず、他に右認定を左右しうるような証拠はない。
そして、本件においては、右に述べた以上に事故現場の正確な状況、事故態様の詳細は認定することができないものであるが、前記争いのない事実及び認定の事実によれば、被告は、前記のように幅員の狭い左カーブになつた下り坂を幅が広く長い被告車を運転してきて対向進行してきた原告車を発見したのであるから、すれちがう前に一時停止し、原告車の動静に応じて徐行しつつすれちがう注意義務があるというべきである。しかるに、被告は、一時停止をせずにそのまま進行した過失によつて本件事故を発生させたものであるから、この点において過失があるものというべきであり、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。また、前記の事実によれば、原告もまた、前記のような道路及び相手方車両の状況に応じ、減速したうえで被告車の動静に応じ徐行しつつすれちがう注意義務があつたものというべきである。
しかるに、原告は、安易に被告車とすれ違えるものと考え、ハンドルを左に切つただけで時速約二〇キロメートルの速度のまま進行して被告車とすれちがおうとした過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、被告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。
三 損害
1 本訴
本件事故により原告所有にかかる原告車の右側部が凹損するなどしたことは前記のとおりであるところ、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証によれば、原告は、その修理費用として金三二万五一九〇円の債務を負担したことが認められる。
2 反訴
(一) 車両修理代
本件事故により被告所有の被告車が損壊し、その修理費用として被告が金八〇万八〇〇〇円の債務を負担したことは当事者間に争いがない。
(二) 代車料
被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証によれば、被告は、被告車の修理のため、昭和六〇年八月一八日から同月二八日までの一一日間、代車としてボンテイアツク・ボンネビルブロアムを借り受け、その費用として一日当たり金七万円、合計七七万円の債務を負担したことが認められる。しかし、不法行為の被害者は、常に必らず事故に遭つた被害車と同種又は同程度の代車料の賠償を求めうるものではなく、被害者としても信義則上損害の拡大を最小限度に押さえるべき義務があるものというべきであり、このような観点から相当性の認められる範囲で賠償を求めうるにとどまるものというべきである。そして、被告車が高級乗用自動車(キヤデラツク)であることは前記のとおりであるが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし三によれば、大阪市内のレンタカー会社においては、乗用自動車についてはクラウン、セドリツク、グロリヤ等のハイグレード車がその扱う最高級品であり、そのレンタル料は概ね一日当たり八五〇〇円ないし一万九二〇〇円で借り受けることができることが認められる。これらの点からすれば、本件事故と相当因果関係のある代車料は、一日当たり一万五〇〇〇円、合計(一一日分)一六万五〇〇〇円と認めるのが相当である。
(三) 弁護士費用
被告が本訴の提起及び追行を被告訴訟代理人らに委任し、その報酬として相当額の支払を約したことは弁論の全趣旨によつてこれを認めることができるところ、本件の事案の内容、審理経過、認容額等諸般の事情に照らせば、そのうち本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金六万円が相当と認められる。
四 過失相殺
前記二において認定判断したところから明らかなとおり、本件事故の発生については被害者たる原告及び被告にも過失があるものというべきであるから、原告の被つた損害の額の算定に当たつては原告の、被告の被つた損害の額の算定に当たつては被告の各過失を斟酌してその額を減額すべきものである。そして、前記認定の事実関係に照らせば、原、被告の過失は、右いずれの関係においても、原告六割被告四割と認めるのが相当である。
そこで、原告の被つた三1の損害から六割の過失相殺減額をした原告の被告に対する損害賠償債権は、金一三万〇〇七六円となり、被告の被つた三2(一)(二)の損害から四割の過失相殺減額をした金五八万三八〇〇円に三2(三)の弁護士費用六万円を加算した被告の原告に対する損害賠償債権は、金六四万三八〇〇円となる。
五 被告の権利主張
被告が原告に対し、本件事故につき、反訴請求の趣旨第1項記載のとおりの額の損害賠償債権を有するものと主張していることは当事者間に争いがない。
六 結論
以上の次第であるから、原告の本訴各請求は、金一三万〇〇七六円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日ののちである昭和六一年四月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が左記の額を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからいずれも棄却し、被告の反訴請求は、金六四万三八〇〇円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年八月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山下満)
交通事故目録
発生日時 昭和六〇年八月一七日午後一時ころ
発生場所 京都府与謝郡伊根町字野村田坪路上
事故車両 普通乗用自動車(大阪五九さ九六一三号、運転者原告、以下「原告車」という。)
普通乗用自動車(キヤデラツク、大阪三三な五六六〇号、運転者被告、以下「被告車」という。)
事故態様 前記道路を対向進行してきた原告車と被告車がすれちがう際に衝突した。